絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『三人の少年』 麻草郁

三人の少年が、遠くに浮かぶぼんやりとした輝きに目を奪われた。
「ああ、あの輝きが欲しいなあ」
輝きは彼達に名誉や富を与えてくれるように見えたし、何よりその輝きを見ていると彼達は心が安らいだ。
一人の少年は、輝きに至るまでの道筋を調べる為に、村の古老の家に行った。
一人の少年は、輝きに至るまでの道を、正しく進もうと決めた。
一人の少年は、とりあえず輝きを追いかけて走り出した。
 
一人目の少年が村の古老の家に着き、輝きの事を話すと、古老は言った。
「輝きへ至る道筋などはない、輝きをもう一度よく見なさい」
少年は、古老が答えをくれなかったので、ガッカリしてもとの場所に戻った。
古老の言う通り、輝きを良く見てみよう。
少年が目を細めて輝きを見ると、中には怖い顔の鬼や獣が潜んでいた。
少年は、恐ろしくなって、輝きから目をそらした。
すると、目の前に可愛らしい少女がいて、輝いて見えたので、彼はその少女と結婚した。
少女の為に狩りをしていると、遠くの輝きはいつのまにか見えなくなっていた。
 
二人目の少年は分岐点に立って考えた。
「どちらに進んだら危なくないだろうか」
右に一歩進むと、背後から怒声が飛んだ。
「そっちへ行くな!」
「おお危ない危ない、左が正しいのだな」
少年は、左側へ進んだ。背後からは
「そっちは良くないよ」という優しい声がしたが、少年には小声の忠告が聞こえなかった。
しばらく進むとまた分岐点があった。
「さっきは右に進んで怒鳴られたから、今度は左に進もう」
少年が左に進むと、また背後から怒声がした。
「こら!決まりごとをやぶるな!」
びっくりして辺りを見まわすと、壁には
【法律だから右へ進め】と書いてあった。
言葉の意味はわからなかったけれども、とりあえず少年は右へ進んだ。
背後からは優しい声が「右は遠回りだよ」伝えた。
彼は少し気になったが、怒鳴られていないので構わず進んだ。
ずいぶん歩いた気がしたので振り向くと、最初の場所はまだ近くにあった。
少年は、ほとんど進んでいなかった。
「一生懸命歩いたのに!」少年は苛立った。
それでも歩く事はやめなかった。輝きはまだ遠くの方にあって、少年を魅了した。
やがて、疲れた彼は、いきどまりに辿り着いた。
「右も左も怒られる、どうすればいいんだろう」
まわりには、彼と同じようにぼんやりと立っている人ばかり。
皆、怒られないように、決まりを破らないように、じっと黙って立っていた。
ぼんやりとした輝きを探すと、いつのまにか輝きはどこにもなくなっていて、辺りはどんよりと濁った空気になっていた。
彼は泣いた、泣きながら思った。
「なぜだろう、僕は怒られない方へ進んだのに」
立っていると、頭の上から怒号が響いた。
「歩け!」
少年はびっくりして歩き出したが、いったい自分が何の為に歩いていたのかはすっかり忘れてしまっていた。 
 
三人目の少年は、走り出してしばらくすると目の前の輝きがなくなっている事に気付いた。
「近づくと、なくなってしまうのかなあ」
横を向くと、遠くの方に更なる輝きが見えた。
「あ、あそこにあったんだ」
少年は、もう村に帰る事など考えてはいなかった。輝きを追いかけて走っていると、楽しかった。
しばらく走っていると、自分の後ろを走っている他の村の少年の姿に気付いた。
「どうして走っているんですか」と少年が聞くと
「君が楽しそうに走っていたから」と他の村の少年は答えた
そうやって、少年のまわりを走る者は、だんだんと増えていった。
中には、少年に走りのフォームを教えようとする者や、少年を転ばせようとする者もいた。
それでも少年は気にせずに走った、輝きにはいつまでたっても辿り着かなかったけれど、楽しかった。
やがて少年は走り疲れて死んだ。
最後まで、自分が他の者にとっての輝きになっていた事には、気付かなかった。


おしまい