絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

フィクション

ノイズは、わたしを、ここちよくします。

あるとき、わたしはライブに行きました。 会場では、ノイズユニットが数組、セッションを繰り広げていました。あるユニットの人たちは、客席に背を向けて、一心にターンテーブルとミキサーとサンプラーと何かをどうにかしていました。音楽が流れ、途切れ、別…

地底衆

地底にいて地底の事情を考えるとやたらに腹立たしくなり、不快になり、それを癒すように思いついて車に乗り、免許がないことを思い出して舌打ちをして車を降りた。ダーメダメダメダメ人間ダーメ人間人間と歌を残したのはキノコを食べて頭がおかしくなりUFOを…

自分の声。

私の眠るソファは、部屋の中程にある。その背もたれの後ろに父は眠っている。夜分おそく、私は闇の中で意識を取り戻す。すると、まったく感情というものが感じられない小さくか細い声が、ソファの裏から聞こえてくるのに気づく。「あー」とか「きゃー」の入…

ぼんやりと白く、薄くて見えないもの。

ぼくだって、むかしはよくファミレスに行って何時間も話していた。進化論や行動学、宇宙、原子や素粒子、心理学や言語学や絵や模型やきちがいの話をたくさんした。 ファミレスに行くといろいろな人がいる、紙をばーっと広げてマンガのネームを描いている人が…

なぐさめにはならないが、何かの助けになるかもしれない物語

物事というのは外見通りに,ひどいことが多い。 ぼくが公園を抜けて団地の裏にジョー(犬の名前だ、白くて雑種で中型で、目つきが悪い。ぼくが小学校に入った日に家に来て、以来五年間一緒に暮らしている。彼に「顎」という名前をつけたのは、ぼくの父さんの…

私のための巨大な乳房 The gargantuan breasts for me

私の体から生えた巨乳を持ちあげながらメイドはつぶやいた。 「三つだ、三つはっきりさせておこう。ひとつ、おれはメイドじゃない、ふたつ、おれは男だ、みっつ……おれは……この途方もないデカパイの消し方を知っている」 ハンス・ヘンリクセンが巨大な乳に関…

聖なるかな、聖なるかな。

「目に見えるものだけがほんとうではない」と言って、おじいちゃんは死んだ。ぼくに遺されたのはイチゴ農園と、一台の車、そしてその言葉だけだった。戦争が終わってずいぶん経つから、兄さんが帰ってくれば農園は大丈夫だと思っていた。だからぼくは車に乗…

努力する者は希望を語り、怠ける者はただ空を見る。

世界には四つの人間がいるんだ。生きる奴、死ぬ奴、殺される奴、そして、殺す奴。 こうやって、後部座席から重くなった死体を引きずり出してると、おれは自分がつねに、殺す側であればいいと思うんだ。 たとえば学校で銃を撃つ奴がいるだろう、あいつらはみ…

ほんとうは来ないバスに乗ってあのこはどこかへ行った

子供の頃を思い出すのは、とても恥ずかしいことだ。思春期にあった様々なことが、普通に思い出せるようになるには、ちょっと時間がかかる。そして、思い出しても恥ずかしくない年齢になった頃には、すっかり細かい事は忘れてしまっている。結婚を前提につき…

科学を信じない私のために。

2183年 党集会議事録より翻訳(原文において損なわれた部分は意訳とした) Aが壇上に立ったとき、聴衆は既に興奮状態にあった。Aは一拍おいて話し始めた。 「あなたたちは、エンゲキというものをご存知でしょうか? 21世紀まではその効用も信じられ…

老猫殺し。

中学二年の秋、美術部の友人が死にかけの老猫を拾った。家の前で雨に濡れて、顔は疥癬で腫れあがっていた。飼っていた犬が吠えたので気づいたのだそうだ。近所に住んでいるその友人は、慌てた様子で私に電話をかけてきた。 「手伝ってほしい、猫が死にそう」…

書くことがなくなったときには。

キーボードに目を落としてみる。乳白色だったキーボードが、長年吸っていたタバコのヤニでうす黄色く汚れている。飲みこぼしたコーヒーや、食べたスナック菓子のカスが、キーの下にはたまっているのだろう。よく使うキーの文字は薄れて消えかけている。 逆に…

ファック文芸部杯出品作品『表現された秩序』

「さんさんとふりそそぐ光、小川のせせらぎ、木の葉のささやき、おお、私はついに来た」 ブリギッテ・ビョルン『逃避行』燐光舎刊 「教授、何を言ってるんですか、教授?」 肩を叩く緑色の男、みどり?ああ、遮光ヘルメットのにぶい反射光だ、空の紫、雲の黒…

『三人の少年』 麻草郁

三人の少年が、遠くに浮かぶぼんやりとした輝きに目を奪われた。 「ああ、あの輝きが欲しいなあ」 輝きは彼達に名誉や富を与えてくれるように見えたし、何よりその輝きを見ていると彼達は心が安らいだ。 一人の少年は、輝きに至るまでの道筋を調べる為に、村…

scr::プロット × 100

断片部で書いてるプロット×100、しばらく休んでいたのだけど、再開した。 http://fragments.g.hatena.ne.jp/screammachine/ ボケ防止。

本書に書かれた内容に影響されるな

おれは映画のシナリオを書いている。いま書いているのはいくつかのヒットした映画をもとに企画された、アイドルビデオドラマ企画のためのシナリオだ。おれはくだらない会話を流し書きながら、とにかく早くこの仕事が終わることを願っている。終われば少しの…

火星のアイドル

おれの名前はムッソリーニ、グラビアアイドルのマネージャーだ。 今日は火星の衛星フォボスで撮影。月に一時停泊した船の船長とひと悶着。テロの危険性にびくついて、船を出さないと言い出しやがった。これだから古いタイプの人間は困る。なんとか無理を言っ…

『地下室の中でイザベッタは』

犬が嫌いな人なんて、いるのかな? あの媚びるような目。叩いても、叩いても、ぼくの後ろをついてくる、従順なまなざし。煮てよし、焼いてよし、種類も豊富なあの犬という生き物を、嫌いな人がいるなんて信じられない。 パンツを脱いで、ちんちんを握ったま…

記憶のために泣くこと

人を殺したことがある。 先日、私は、まったくの初対面である若者と、友人と、三人で飯を食った。 その席で若者は言った。 「洪水で死んだ十数万人全員に感情移入なんて、できないですよ。だから、哀悼の意を表している奴は、偽善的でむかつきますね」 私は…

『三次元と二次元』メモ

脳は立体である。だが、神経は三次元的に接続されているが、言語は二次元だ。 人間は、三次元と二次元を行き来する動物なのだ。 (昆虫の情報交換は主に化学物質という立体物) 人間が他の動物と違うところがあるとすれば、それは文字を使うということだろう…

11月3日夜

友達が、今日、ごはんをたべながら、怒っていた。 「イラクどう思う」 「ああ、首切られた人がいたねえ」 私は、新聞を読まないので、ニュースがよくわからない。 友達は、口にほおばった米をもりもり飲み込みながら、しゃべった。 「たぶん日本でも、勘違い…

『老人と杖』

私の家は西新宿にある、といっても都心たるビル街ではなく、坂を下ったところにある、潰れかけた二階建ての長屋だ。南向きの窓からは、豪奢な都庁舎が見える。私には関係のないものだが。 私は貧しく、力もなく、能力もない。コンビニエンスストアや、ファー…

なみだがあふれてとまらない

「世界の終わりってさぁ、ファンファーレじゃなくて、めそめそと地味にやってくるんだっけ」 携帯電話片手に彼女が友達としゃべってる、ぼくは喫茶店で向かいの席、キャラメルなんとかを飲んでる。 「あのくたらさんみゃくさんぼーだーいー」 いつの間にか目…