絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『GoGo』 第十二話 『Q/F』

 拳を堅く握りしめて壁に打ち付ける事で心の平静を取り戻そうとした。
 私の視界が狭まり脳の内部が奇妙に歪む。
 怒りは発作のように思考を循環させた。
 息子が殺人者であることを知ったのは三日前のことだ。
 十六才中学三年生男子学校女性教諭殺撲殺逃亡潜伏現在尚逃亡中。
 私は何度も何度も何度も何度も拳を目の前の壁に打ち付けた。

 テレビではまだ報道されてはいないこの事件が厭らしいマスコミの掌で撫で回され弄ばれる様を想像しては嘔吐感に苛まれる大学教職五十二才男子一生の仕事として人間の育成に励んだ結果がこれかと笑い声が聞こえる父親の声「おまえなど一生助教授のままだ、テレビにも出られんくせに一端の口をききおってこの若造が」わかってないわかってないよお父さん僕の仕事はそういうんじゃないんだ殺すんだったら俺を殺せば良かったのになぜ他人を殺したお前の人生を肯定してやれば良かったとでも言うのかふざけるんじゃない口ばかり達者になってお前が口を開く度に俺はお前を殺したくなったものだやめてくださいお父さんマサヨシの前で母親のことを悪く言うのは止して下さい学校にも行かないでそのパソコンを誰が買ったと思っているんだお前誰のおかげで生きていると思ってまさかそんな口論が原因で第一それなら殺されるのはやはり私では何故教師を殺した蛆虫め寄生虫め俺の遺伝子から何故お前のような屑が生まれたのかやはり母親が悪かったのかあの売女若い男に走ってこの俺を馬鹿にした事を後悔させてやる一生この傷は消えない傷つけられたのは俺だ可哀想な俺が殺さないでいるのに何故お前は殺した殺したいのは俺のほうだ社会の道理も解っていないくせに何故俺の否を責めるうるさいお前とは口をききたくない黙れ黙れ何が悪かったというのだ俺は間違っていなかったお父さんやめてお母さんを殴らないでと何故あの時言えなかった俺は只部屋の隅で震えていて暴力だけは振るうまいと心に誓ったその俺がいつ怒鳴った叫んだお前は何故そんな目で俺を睨むお前に俺の気持ちなど解るものか黙れ寄生虫が誰のおかげで生きていけると思っているんだそんなまさかそれだけで人を殺せるものか俺が俺が罵った所為で人殺しをしたなんてそんな馬鹿なことが刑事さん止して下さい本当にそれが原因なんですか特定はできないでしょう息子は通院歴もあったし最近はカウンセリングも休みがちでインターネットばかりしていて私は覗いたことはないがあれは治療には向いていないどうしてそんな目で見るんです刑事さん私に責があるとお考えですかそんな馬鹿な社会的にも地位のある私に責任が。

 刑事が帰った後で私は何度も拳を目の前の壁に打ち付けた。
 だんだんと頭が冴えて来た。
 殺してしまおう。
 どうせ俺の種だ、殺してしまおう。
 警察が見つける前に俺が殺してしまえばきっと世間もお父さんも僕を
 一人前の男だと認めてくれるだろう。
 そのあとでお母さんに許してもらおう。
 そうだ、それで決まり。