絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

中国での仕事仲間、俊さんの話。

俊さんはオタクだ、萌えオタだ。日本のゲームやアニメ、ラノベに耽溺しており、普通の文庫本なら一ページに一分もかけず翻訳できるほど日本語にも精通している。中国の会社では企画室の人だが、ぼくの渡航時は、おもにぼくの通訳を担当している。なぜなら彼は、ぼくの喋る言葉を、ほとんど完璧に翻訳できるからだ。
彼の上司は、ビジネス的な会話の通訳はできてもオタクではないので知識に限りがある。映像に関する専門単語や、映画の題名などは、詳しい説明が必要だ。だが、俊さんならその心配はない。
オタクだからだ。
更に、彼の知識はアニメだけに収まらない。たとえばぼくがうろおぼえで話したことを、ちゃんと要約して伝えてくれる。
麻草「最近の戦闘機はベクターノズルで面白い動きをするものもあります、えーと、なんていったっけな……ここからは通訳しないで、ほら、米軍の新型機で、映画版のトランスフォーマースタースクリームのモデルになったやつ」
俊「ああ、ラプターですね、F-22
麻草「そう! それ!」
みたいなことがよくある。中国では気軽にWebでの検索もできない。彼がいなければ、ただでさえ倍の時間がかかる打ち合わせは、果てしないものになっていただろう。
そんなナイスガイの俊さんだが、彼にはもうひとつの顔がある。そう、萌えオタだ。
たとえば前回は、会うなりいきなり「パッと見オタクとわからないオシャレTシャツです」と言って、ぜかましTを見せてきた。

まあ確かに一見何のシャツかはわからない。だが、ぼくは見ていたのだ、彼の背中に堂々と書いてある艦隊これくしょんのロゴを。

それを指摘すると、俊さんは「バレバレかよ……」と、半泣きになるのだった。
そして、俊さんは声オタでもある。
俊「好きな声優さんは東山奈央さんです。きんいろモザイクという作品で好きになりました、最近は艦これの金剛です。外国語訛りの日本語がいいですね。ラジオも聴いてます……中国には東山区という区画があります、東山口という場所も……もう、直視できません(赤面)」
上司には、タクシーの中ではあんまり日本語を喋るな(反日の人もいるから)って言われてるのに黙らない俊さん。
俊「早見沙織さんも好きですね『俺ガイル』の雪乃はよかった。あと最近は佐倉綾音さんのわざとらしい演技が好きになりました『せんぱいなにしてるんですか〜?(裏声)』いいですね〜」
そういえば「何で艦これ好きなの?」と聞いたときの反応もすごかった。
俊「中国にも艦これのパクリゲームがありました、でもいまはありません。本社の前で80人のオタクが抗議集会を開いてやめさせた。パクリゲームもやってみましたが、魂がこもってない、ただ女の子に戦艦の名前をつけただけ。とくに声がぜんぜんダメ。艦これには魂があります、声を聴けばわかる(めっちゃ早口)」
そして打ち合わせの休憩中に、突然、Win8の擬人化キャラを見せてくる俊さん。
俊「公式です、中国にもファンアートはありますが、公式なのは日本だけですよ、これだけでも日本は素晴らしいと言えます。あ、公式の絵は台湾と香港にもありましたね。どちらも素晴らしい。中国にはありません、最悪ですね」
そんな俊さん、現在恋人は特に募集していない。
俊「ぼくは一人が好きなんです、一人の時間を大切にしたい。声優のラジオを聴いている時が一番楽しい。結婚したいとも思っていません。でも、最近、同僚が結婚したんです。そいつに写真を見せられると、爆発しろと思ってしまう。憎いです……あいつの妻は金剛のコスプレイヤーなんです」
会話中に、声優の名前などをメモしているのがバレて、俊さんにこのことを書いてもいいかと聞くと、快諾してくれた。
俊「どうせ中国ではTwitterFacebookも見れません。これから変わるかもしれませんが、まだ、わからない。あ、ただひとつ、名前は俊にしてください。ぼくがつけた日本の名前です」
まだ彼は、一度も日本に来たことがない。彼の夢は中国で萌えゲームを作り、日本の声優に出演してもらうことだ。
ぼくは、彼の夢がかなうといいな、と思っている。