絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

それはよくひびく歌声だった。


 ロケハンで呼び出されて茅ヶ崎へ。交通費が出るというので湘南新宿ラインに揺られて海のそば。チェーン店のパック寿司と八海山を購ってもらい、浜辺のブロックに座って打ち合わせ。鯖、ホタテ、卵。うまい。風が珍しく凪いで波も低く、穏やかな日だったらしい。
 遠くからなにやら古い歌謡曲をうなる声が波音にまぎれて届いてくる。近所の誰かが練習しているのだろうと向かいの人が言う。サングラスに映ったぼくは、ほうと嘆息して寿司をほうばる。波、鯖、太陽、ホタテ、呼吸、卵、八海山。日がかたむいて海にぎらりと照り返す。少し日焼けしたのか酒のほてりか、頬が熱くなったころに話にも段落がつき、続きは後日となった。

 岐路、浜に立てられた竹柵の上を猫がゆるり通り過ぎ、それをそおっと子供が追っていた。猫は気づいているのか知らぬふりで、優雅なものだったよ。なんとかいう作家が猫をキリストになぞらえて孤独を楽しんでおると書いていたのを思い出したが、なにあれは「孤独に見える私」を楽しんでいるに違いない。でなければ子供なんて小うるさい生き物に追われて悠然と歩けるものかね、私なら走って逃げるか遊びの相手をしてしまうだろう。
 鎌倉に猫を飼っている友人が住んでいるので寄りたかったが、夕方から別件があったので断念。今度来るときは彼と猫に土産を持って来よう。