テッド・チャン『あなたの人生の物語』
読んだ。これは、素晴らしい、みんな読もう。
神や天使が実在する世界、あらゆる情報を脳が処理可能な世界、天蓋のある天動説世界、それらの物語が、脳のあらゆる場所にある記憶を刺激して、楽しませてくれる。
あらゆる面、とまでは言わないまでも、人間の多様な面を認めることができれば、楽しめる創作物の数はぐぐぐと多くなる。
むかしのぼくみたいに、一方的な視点で神への信仰を批判する人間であれば「地獄とは神の不在なり」を素直に楽しむことができただろうか。単なる皮肉以上のものを感じられただろうか。
ドラッグに耽溺していた時期に「理解」を読んでドラッグ小説的な楽しみ方以外の"理解"が可能だっただろうか。『スキャナーズ』みたいだなあ、って思って終わりじゃなかったか。
クトゥルフばっかり読んでいた頃なら「ヘプタポッドって"古のもの"に似ているなあ」って思ったんじゃないだろうかってこれは冗談。
小説を読むと「感動の仕組み」をすぐに考えてしまうんだけど、素晴らしい物語は分解すればするほどその素晴らしさに感動してしまう。『あなたの人生の物語』は、どんなに細かく分解しても素晴らしさが消えない。細胞のひとつひとつが全体を現している。
ほめすぎかなあ、だけどこの短編集に収録された作品群が高い評価を受ける理由はそこにあると思うのだ。
そうそう、あとがきの
のちに、もし人々がもっと信仰心が篤いなら、教会に出席するときに安全ヘルメットをかぶり、信徒席にみずからを紐でくくりつけるだろう、とディラードが書いていたのを思い出した
(作品覚え書き「地獄とは神の不在なり」より)
というのが、いい引用だと思うのでメモしとく。
世の中的には「都合のいいときだけ信じる」というのが正しいのだろうが。