絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

舞台『ヨルハ』とわたくし

 明日は舞台『ヨルハ』千秋楽です。今回ぼくは、ゲームクリエイター・ヨコオタロウさんのプロットを脚本化させていただきました。のと、銃器類のコーディネイト、扱いかたのレクチャーなどを少々。銃など触ったこともないという人から、趣味で家にモデルガンがありますという人まで、さまざまな出演者さんたちに「銃口をみだりに人へ向けるべからず」「トリガーに指をかけるのは相手を撃つときだけ」などの基本的なことから、ハンドガンやライフルの構え方と、撃ったときの反動の向きなどをお伝えしましたところ、これが皆さん飲み込みが早い。そして真剣。結果的に緊張感あふれる舞台の中でしっかりと銃を扱うことの意味が表されていたのではないかと思います。どうでしょう。
 脚本を書いたときにイメージしたものと、上演された舞台には違いがあります。今回のそれは「美しさ」でした。照明、音響、歌唱、振り付け、演出、それらが混然となって結晶したものが、めっぽう美しい。目撃した人にしかわからない至宝の美しさがそこにはあった。と、思いました。
 その美しい記憶を胸に、魂のないアンドロイドは生き続けるのです。

『ともだちインプット』 作詞 麻草郁


私ロボット 喜びをもっと
約束はずっと 守ってねぎゅっと
いつかはきっと さよならをそっと
言葉をセット その響きぐっと

伝えることばは 持たなくて
プログラムにも ないのだけど
頭の中でスパークする
ひらめきを君に教えたい

命令しないで!
自分で決めるの!

自我に目覚めたバーチカロイド
頭の中はクエスチョン
どうして私は生まれたの?
プロメテウスにもわからない!
知りたい!


私ロボット 教えてよヒント
始まりはビット 回ってるボルト
一人ぽつんと 立つのがやっと
あなたにシュート 届けたいハート

悲しい気持ちは わからない
アプリケーションはハングアウト
胸の奥には痛みがある
君に出会えた記憶がある

お別れするのは!
本当に辛いけど!

機械はいつか壊れちゃうの
壊れたパーツは取り替える
頭の中をキレイにしたら
君との約束忘れちゃう!
好きだよ!

自我に目覚めたバーチカロイド
頭の中は疑問でいっぱい
どうして私は生まれたの?
プロメテウスにもわからない!
知りたい!

ゆえに問うなかれ

誰がために鐘は鳴るやと
気が付けばもう二か月経ってるわけですよ、あっという間に七月です。
『あなたに贈るキス2』も来週が本番ですよ。http://initialfilm.jp/stage/kiss2/index.html
そは汝がために鳴るなれば
 
作中で引用しているわけではないですが、死を扱う物語を書く上で心にとめおきたい文章であります。

any man's death diminishes me, because I am involved in mankind, and therefore never send to know for whom the bell tolls; it tolls for thee.
John Donne

歯が痛くて眠れないのだ。

 頭のアンテナが鈍っているといいう恐怖が最近の一番の不安であった。世間の出来事にたいしても何かの作品を見ても感想を言うなどというだいそれたことをする余裕もないというしかない。自らのこの数年間を顧みて、他のジャンルとの親和性が低すぎるのではないか、ニッチに寄りすぎて過去の友人との交流も少なくなってしまったし、私はいったい何のために生きているのかわからないような状況が続いていた、そこにこの歯痛である。もはや逃げ道はない。
 表題にある通りだ、夜中の三時に歯が痛くて目が覚めて眠れない。鎮痛剤も睡眠導入剤も何も効かない、ただひたすらに右の奥歯が痛い。突然の疼痛だ、何の対処も仕様がない、どうすればいいのかわからない。とにかく眠れないのだ。こんな時何にでも効く薬があればいいのにと思う、もちろんそんなものはない、手もとにもないしこの世のどこかにあるとしてもだいたい違法だし。朝まで待てばいいものをこの時間に目覚めさせるなんて何かに陰謀に違いない。明日の朝からやっている歯医者に行って、おそらく膿のたまっている奥歯を抜いてもらいたい、エナメル質を砕いて中の膿を吸い出して神経を焼いてすっきりしたい。これまでも悪くなった奥歯はあらかたなくなってしまった、それでも喋れているのだから大したものだ。歯がすべてそろっていたらどれだけの言葉をしっかり喋れていたのだろう、私はもう喋るのが怖くなってしまった。書いても書いても痛みが薄れることはない、歯が痛い。間抜けだ、大間抜けだ、歯が痛くなっていから歯医者を探すのだ、間抜けの一言としか言いようがない。
 毎日磨いているし、治療だってしていた、なぜ今になって急に奥歯が痛み出すのかわからない。免疫が落ちているのかと不安になる、このまま全部の生きている歯が無くなって神経を焼いた歯のようなものを口の中にしまうだけの生活も悪くないかと思う。それより心配なのは金だ、痛みを止めてほしいのに「気長に治療しましょうね」などと言われたらあの便利な椅子の中でおれは「うう」とうなって泣き出すかもしれない、これからいくらかかるのかわからない、歯は磨いているのだ、毎日嫌になるほど磨いているのだ。過去の治療痕が膿んでいるいるわけでもないらしい、写真を撮るとツルツルと美しい歯が見える、この歯の奥で何が起こっているのか何もわからない、不安で仕方ない。
 久しぶりに会った人に「元気がないですね」と言われた。元気など昔からない、あるならばそれは空元気というやつだ、もう無理だ、歯が痛い。

舞台『あなたに贈るキス』の続編上演が決定しました!

もうすでに告知されているのでご存じの方もいるかと思いますが、昨年末に上演された舞台版『あなたに贈るキス』の続編上演が決定しました! 今回も脚本を担当させてもらいました。学園ドラマとサスペンスの融合に挑戦しています。演出はロ字ックの山田佳奈さん(公式サイトhttp://www.roji649.com/)。
2014年7月9日〜7月13日 俳優座劇場にて。出演:山崎大輝 北村悠(EMALF) 片山陽加AKB48西条美咲
http://initialfilm.jp/stage/kiss2/index.html

今更ですが、脚本を書く仕事をさせていただいております。

 舞台『ラフィン〜笑いの免許証〜』の思い出を書きます。笑うことが禁止された近未来、50年前の過去からその未来を変えるために一人の少女が送り込まれる……原案は一つの言葉「笑いの免許証」。プロデューサーだったレイモンさんが放った一言でした。原案を渡されたら考えるのは脚本家の役目です。笑うことに免許が必要なら、笑いを生むものはすべて禁止されているだろう、落語なんてもってのほかだ! それに、そんな未来は管理社会に違いないから学校も軍隊のように規律正しいに違いない……と演繹的に生まれた物語の中でレイモンさんが欲したのは「その子が来たことですべてが裏返るような出来事」でした。縛りはそれだけですから、過去から未来へ旅を続けていく悲劇のヒロインにすべてを託して物語は進みます。滅んだはずの伝説の落語、その最後の噺家が遺した隠れ弟子、そしてしりとりで相手を洗脳していく謎の教師……親の財力にものを言わせて笑いの免許証を買った大金持ちの前生徒会長焔乃火や、自分を律するがゆえに他者にも厳しい生徒会長千歳麒麟など、生徒会長キャラにも多様性をつけられたのが面白い経験にもなりました。以前から渇望していた『しりとり洗脳シーン』の実現、そして空前絶後のスローモーション落語……演劇だけに許された異様な空間は、観た人の心にどう届いたのでしょうか。
 主題歌をあらためて聴き、彼の遺した舞台作品に関われたことを誇りに思います。