絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『塵クジラの海』

ブルース・スターリングの処女作。
結構前に読んだんだけど、机を片付けたら出てきたので再読。
「好きなものを全部入れた」と言うだけのことはあって、ドラッグと恋愛のグチャグチャハードコアロマンスが、奇妙な惑星の、塵の海で繰り広げられる怪作。皮膚が弱いから、人間とキスをすると炎症を起こす女コウモリ人間というのが出てきて、血に興奮したり、赤くはれ上がった顔で泣きながらしたりする。
「なのさ」文体を受け入れられる、むしろ好き、って人なら、かなり楽しめます。
 なのさ文体とは「それが人生なのさ」といった、日常会話では使わないような言葉の使用法。いわゆる"翻訳文体"の雰囲気をかたちづくる。特に日本的ではない世界を描くのに「日本語ではあまり聞かない用法」というのは、有効なようだ。それが絵空事である、うそであるという安心感を読者に与えるからなのかもしれない。
例:「あれは犯罪行為だった。だが、あのときは必要なことに思えたのさ」
参照

こういう現実との対応の薄い表現を安易に使うと、その書き手が現実からいかに離れたところで物を書いているかが露骨に証明されてしまうのではないか。
山形浩夫『言語表現の現実味』よりhttp://cruel.org/other/wordreal.html