絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

"○○という言葉はおれが作った説"について。

要約:ある一定の情報が脳に入ると、脳はそれらの組み合わせから新しい情報を排出する。

 ツンデレというキーワードの解説には、その語源が、このように記されている。

言葉の初出はとあるリアルタイム系掲示板における空白さん(匿名投稿者)。
佐久間晴姫という上述の属性を持つヒロインについて話題になった際、「俺は晴姫みたいなツンツンデレデレキャラに弱すぎる、萌え」というニュアンスの投稿がなされたのが起源。

だが、コメント欄においては、このような発言があった。

# gyozanoosho 『まず第一にツンデレという単語は私が考案したものです。他のコミュニティでの事なので詳細は省きますが、厳密には私を含め3人程度の会話から生まれたことから、その知的所有権の一部を私は有しているのではないでしょうか。はてなダイアリーがそれを掲載することで商用利用しているのは紛れも無い事実ですが、私はそれについて権利を云々するつもりはありません。が、最低限編集程度は認めるべきでしょう。』 (2005/08/11 04:19)

しかし、ツンデレの起源について、研究者はこのように結論付けている。

2chで生まれた言葉ではなく、元々は「あやしいわーるど」という匿名掲示板から生まれたようです。
言葉を考えた人は誰かはちょっと知りません。
http://www013.upp.so-net.ne.jp/gon/tundere/introduction.html

 なぜ、このような齟齬が生まれるのか。
 ここで他の研究、クワイ河マーチの歌詞についての考察を引用しよう。

『戦場にかける橋』でおなじみ「クワイ河マーチ」(いきなりMIDIで音鳴ります注意)って曲がありますよね。このテーマに合わせて「サル ゴリラ チンパンジー♪」って歌ったりするじゃないですか。これ、自分の幼少時(小1)の記憶だと俺が自分で思いついた替え歌ってことになってるんですよ完全に。
http://d.hatena.ne.jp/crossage/20050712/1121128777

 ホシヒコ氏はここで

を提唱しているが、わたしはここにもうひとつの説

を提唱したい。
 これは、サールが1980年に発表した「心・脳・プログラム」という論文の中に書いた例え話だ。以下、簡単に要約する。

 部屋の中に、中国語の読めない英国人を閉じ込め、中国語の文章が書かれたカードと対応表を渡す。外から質問が書かれたカードが入れられ、英国人は対応表を見て、対応する回答の書かれたカードを外に出す。
 正しい答えが返ってくるから、外にいる中国人には箱が中国語を理解しているように見えるが、英国人は中国語を理解しているわけではない。

 これは、人工知能にどれだけ言葉をおぼえさせても、それは知性の証明にはならない、というお話。
 これと流行語の間にどんな関連があるか。
 現代に限らず、一般に流通する言語というものには、膨大な背景情報が含まれている。たとえば「ググる」という単語には「googleで検索する」という意味があるが、

数百年後の未来に話されているであろう普通の1文を現代の乏しい語彙に展開すると、その結果は読み上げるのに1億年くらいかかるものになるであろう、というスタニスワフ・レムネタ(ISBN:4336035938)を思い出した。例えば、1905年(あるいは1805年)に存在した語彙の範囲内で「ぐぐる」とは何かを説明しようとするとどういう困難が起こるか、という話だ。
http://mohican.g.hatena.ne.jp/another/20050728/1122556819

 江戸時代の日本人に「ググる」の意味を説明するには、どれだけの背景情報を伝えればいいか。
 それを逆転させてみよう、つまり、背景情報さえ揃えば、言葉は生まれるのだ、と考える。
 わたしたちが、脳にそれぞれ中国語の部屋をひとつ持っているとしよう。そこには膨大な量の単語が蓄積され、分類され、関連付けられている。その棚は、ある文化圏においては非常に似通った状態を形作る。
 同じ単語、同じ替え歌を創出するほどに、似通った状態だ。そう、流行は偶然同じ時期に同じように発生する、したように見える。だがそれは、偶然なのだ。そこにオカルト的な同時性を介在させる必要はない、なぜなら、言語に課せられたルールは、遺伝子ほどに複雑ではないからだ。
 もう一度、要約しよう。
 ある一定の情報が脳に入ると、脳はそれらの組み合わせから新しい情報を排出する。
 あなたは、どんな情報を排出するのだろうか。