絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『ローレライ』過剰な説明と

 なぜローレライは寄贈艦なのか。日本の建造艦であれば、海軍の日章旗は必ず掲げられてしまうだろう。ドイツの建造艦であれば、ハーケンクロイツがたなびくだろう。だが、ローレライはどこにも属さない、日章旗も、鉤十字も、菊の御紋も、どこにもない。
 クーデターの首謀者朝倉は、神殺しをたくらみ、第三の原爆を東京に向けて飛び立たせる。あの時代の神と言えば天皇であり、東京には天皇が住むのだから、朝倉がたくらんだのは天皇殺しである。朝倉は天皇を殺すことで、国家としての切腹を成し遂げようとする。
 劇中戦う者たちの口に「天皇陛下万歳」という言葉がのぼることはない。軍人たちは皆「国のため」「家族のため」「残された者のため」に戦う。もはや、天皇のために戦う者は、生き残ってはいないのだ。
 そして、あらゆる場所から国籍をあらわす記号が消された。国旗が、軍旗が、消された。
 共に見た右翼の友人は「これは太平洋戦争の映画ではなく実写版『ヤマト』である、ゆえに天皇陛下という言葉が一切出ずとも、オールOK問題なし」と言っていた。
 心情左翼であるぼくは、劇中朝倉大佐が発したセリフに、監督の意図を想像する。
 生き残ったのは屑だけだ。生き残ったのは屑だけだ。
 もはや、ぼくたちにあの戦争を回顧する資格はない。
 ただ架空の知らぬ時代、知らぬ場所で起こった悲劇として。ガミラス星で戦った若者たちの物語としてしか、想起することは許されない。
 それをぼくは喜び、また同時に悲劇と感じる。
 映画『ローレライ』は現代日本でしか作り得なかった、最上の架空戦記映画である。
 
 ちなみに、朝倉が指摘する絹見の言葉「特攻は作戦ではない、人的資源の損失である」は、山本五十六に対して天皇が発した言葉である。

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 ちゅうわけで真面目な感想を書いてみたが、まあぶっちゃけ実写版『ヤマト』であり、実写版『逆シャア』であると思った。というか、SF映画なのだな。冒頭の字幕が出たときに「これはSFだ!」と思ったのも、直感ではあったけれど、正解だったみたい。西暦が宇宙暦だろうがA long time ago in a galaxy far far away.だろうが、物語の大筋「女子供を守るために男は戦うのである」には何の関係もないのだ。だからこそ、わざわざガミラス星ではなく「太平洋戦争」を題材にする意味が出てくるわけなんだけれども。
 そうそう、メイン登場人物の制服は全部既製品じゃなくて、デザインおこしたり、襟の形や縫製なんかも変えてあるんだって。まあ艦長がコート着てるし、単なるイメージ優先ってこともあるんだろうけど。あと小道具なんかも作り起こしが多い(妻夫木のレシーバーとか)ので、その辺も見所ですな。
 あとは、ぼくは登場人物たちの行動原理に何の疑問も抱かなかったので、そういう意見は残念だなあ。死のうと思っているひとは、死ねる場所を見つけるとすぐに死ぬもんだと思います。あと、特撮脳なので「CGばっかり」って意見を見るとちょっと萎える。ミニチュアも結構あったのにな……ま、ミニチュアをCGの背景に合成したら、全部CGに見えるか。
 文句があるとすれば、ドイツと日本のハーフであるパウラの日本語にドイツなまりが感じられなかったところだ。興奮するとドイツ語が出るとか、妻夫木に日本語を教えてもらうとか、最後のシーンでおぼえたての言葉で「アキラメルナ、でしょ?」って言うとか!そういうシーンが!片言で一生懸命何かを伝えようとするシーンがあったらよかったのに!という片言萌えの欲望がもう少しかなえられてもいいんじゃないかな?って思った(片言なら外国人でもロボットでも人造人間でも宇宙人でも何でもいいです!)。