絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『GoGo』 第一話 『少年Q』

「貴方の望むものは何?」
 お母さん、僕は今、広い荒野をただひとり走っています。
 背後の空がだんだんと紺から紫へとかわっていきますので、朝が近いのだろうと思います。
 聞こえますか、聞こえますか?この通信を聞いている、世界の全ての人に祈りを。
 あなたの夜が平和でありますように。
 十二の金属片を頭部に埋め込まれた僕から発振するパルスは12万メガヘルツ。
 虚空を飛んで君の周りをひとめぐり。

「あなたののぞむものはなに?」
 瘠せた少女の神様が、こっちへいらっしゃいっててまねきしています。
 殺せ殺せ殺せって命令するので、どうしようもないので僕は右手に引き摺っている角材を掌から引き剥がしてその角材にこびりついた赤くて黒い嫌な匂いのする、あれは血ですね、血を見て吐いたのです。
 ロビンと名乗るその少女から、金属の円筒をあずかった僕はただ命ぜられるまま西へ西へと駆け進む。
「こちらは第37監視塔脱走者を発見せり直ちに捕獲処刑を遂行」
 受信機を逆に嵌め込めば発信機になる、中学で習っただろう?
 手回し発電機に通電させればモーターになるという真理。
 絶対の魔物は脳髄の外に出てひとやすみ。
「あぁ愉快だな、ご馳走ぢゃないか」

 狂っているのはあなたですよ。
 狂っているのはあなたです。

「あなたのぉのぞむものはぁなぁに?」
 ゆらりゆらりゆらりゆら天国から見守っていてね。
 半ズボンをはいた少年たちの合唱隊がコーラスを響かせる。
 金属の円筒を説明書どうりに展開してゆくとホラ、立派なパラボラアンテナのできあがりです(素晴らしいなあ)。
 床にしみがひろがってゆく、ひろがっては戻って、まるで呼吸をしているみたい(それは目の錯覚です)。
 歌をきいたのです、こめかみから刺さって反対側のこめかみへ、ナイロンの輪がぐるぐると回転するような歌(御心のままに)。
 パラボラアンテナには僕を誘拐した宇宙人からのメッセージが
「愛が地球を救うんですよ?」
 足がもつれて倒れた。

「あぁなたのぞむもののはななぁぁに?」
 地面に倒れたぼくの首。
 背後から迫る朝の指。
 十本十本あわせて二十本。
 僕の首筋へ顎の下へなめらかによりそうように嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
 お母さんが言いました「あのこは昔からこころの弱い子で」
 知っています、海よりも深くお母さんの目に誓います。

「あぉあんもぼうぼぅばぁああああいぃぃぃぃ?」