エドモンド・ハミルトン『反対進化』
いきなり自分の話だけど、むかし入院した時に、ある知人がドサドサと本を見舞いにくれたことがある。その知人は時代ものが好きだったので、山本周五郎の短編や、山田風太郎の忍法帳を古本屋で買って来ていた。その中にカタカナの著者名がいくつかあった。
「お前、こういうの好きだろ」と言いながら、知人が渡してくれたのは、SFだった。
もし、その時、知人がJ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』を買って来てくれなかったら、おれはSFを好きになっていなかったかもしれない。筒井康隆や星新一は読んでいたけど、その他のSFというものはサッパリ知らなかった。
そうやってSFと幸福な出会いをしたおれは、それからむさぼるようにSFを読もうとしたらアンドロイドは電気羊の夢を見るしニューロはマンサーするのでウェットがウェアした。もちろんその間も銀河帝国が興亡するのを横目で眺めながら幼年期を終わらせたり、たったひとつの冴えたやりかたで夏への扉を開けたりするのも忘れなかった。
ただ、どうしてもキャプテンフューチャーだけは、近づきがたかった。
なにしろ、エドモンド・ハミルトンといえばいわゆるスペースオペラであって、なんとなくバローズ、ウェルズ、ヴェルヌとかと同列に、勉強のためには読まなきゃな、くらいに思ってたのだ。ところがとんでもなかった。
ここには何もかもが詰まっている、荒削りで、科学的誤謬にまみれていて、そしてせつなくて美しい、SFの元素が。
だってあれはほんの赤ん坊だった。なのにおれたちはそいつを死に追いやった!ちくしょう!おれたちは何さまだ?
『超ウラン元素』より
だいじょうぶ、SFは死んでいない、成長して増え続けている。おれは『反対進化』のような短編集が出る時代に生まれて、本当に良かったと思う。
- 作者: エドモンド・ハミルトン,中村融,市田泉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/03/24
- メディア: 文庫
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