絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

ぼくは電車を降りた。

 JRの駅を出ると、複雑にからまった歩道橋の上だった。金網がかけられていて、まだ工事中のようだ。下の道路には信号機がなく、乗用車もトラックも走り続けていた。社長はクラブのママらしき人物に向かって「カードでお願い」とクレジットカードを渡している。心配になるが、社長は「Y本が大丈夫だって言っていた」と譲らない。
 支払いの為に社長がいなくなり、しばらくすると携帯電話に社長から着信。
「コンビニでカードを使おうとしたら使えない、残高がない」と心細そうな声。
 どうやらさっきカードを渡したクラブのママにスキミングされたらしい。
「今すぐ行きますから、待っていてください」とだけ言って通話を切った。とても面倒だ、歩道橋は複雑にからみあっていて、どこから降りたらいいのかわからない。トラックが通るたびに金網が揺れる、ここは、ほんとうに通ってもいい歩道橋なのだろうか?
 階段を見つけて、早足に降り、そのまま路地へ向かった。途端に道に迷い、後悔の念が押し寄せた。いつも通る高い塀のある路地は、いつもどおり塀のむこうにある大きな樹のせいで薄暗い。苔じみたブロック塀には、プラスチックの周辺地図がいたるところに貼ってあるが、どれにも現在位置が示されていなかった。
 地図を見ていると、前方から子供がふらふらとやってきて、足元を通り過ぎていった。
 ああ、危ないな、あっちは車が多いのにな、信号機がないのにな、心配だな、と思っていると、案の定何かが車にぶつかる音がした。
 ブレーキの音はしなかった。後悔の念は次第に強くなったが、ぼくは振り向けなかった。