なみだがあふれてとまらない
「世界の終わりってさぁ、ファンファーレじゃなくて、めそめそと地味にやってくるんだっけ」
携帯電話片手に彼女が友達としゃべってる、ぼくは喫茶店で向かいの席、キャラメルなんとかを飲んでる。
「あのくたらさんみゃくさんぼーだーいー」
いつの間にか目の前にいたはずの彼女は老婆の形をしたスピーカーに姿を変えていて、くさったにおいがする。店は暗く、テーブルは灰でよごれてる。
「どうしたの?」電話を切って彼女が訊く。ぼくは口の端をあげて、どうもしてないよ、と答える。きれいな店だ、禁煙だから変なにおいもしない。ぼくはポケットの中にあるタバコの箱を握ってしゃべり続ける。ドーンオブザデッドが観たいな、世界の終わりはさ、向こうの方から走って近づいてくるんだよ。
向かいの席には誰も座ってない。とたんに耳鳴りがサーと鳴り始める。だんだんと手足の先から冷たくなる、あたりが暗くなって、ぼくはおなかが空きはじめる。