絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

 クリストファー・プリースト著『奇術師』(ISBN:4150203571)を読んでいる。二人の奇術師が記した日記を中心とした、確執の物語だ。登場人物のひとりルパート氏は、奇術師のくせに客席から奇術を見ると、トリックを見破れない。ライバルのボーデン氏が行う記述「新・瞬間移動人間」の秘密が見破れなかったルパートは、なんとかトリックを解明しようと真面目に考え苦しんだあげく、もっとも明快な答えを考え出す。
 イヤこれは面白い、世界幻想文学大賞を受賞し『メメント』のクリストファー・ノーラン氏による映画化も決定しているらしい本作は、まさしく奇術の発想によって形作られている。

こうしてわが手になにも隠されていないことを示した以上、読者であるあなたはこのあと大がかりな奇術/詭術が示されるだけでなく、自分がそれを黙認してしまうことを予想しているに違いない!
(P61)

 あらゆる虚構がそれを前提としていることに、少々無頓着なひとが多すぎやしないだろうか。てのひらをくるくるとまわす演者に向かって「服を全部脱いでみろよ」と叫ぶことが、批評だろうか。
 およそ4分の3を読み進めたいま、ぼくはこの作品を読むことで得られる興奮と、これからの創作に与えられるだろう刺激を喜んでいる。

 ただひとつ問題がある。この本がなぜ、手元にあるのかが思い出せないのだ。なぜ、この本を読んでいるのかも。誰かこのトリックを解いてはくれないか、ぼくもまた、客席からはトリックを見破れない者のひとりなのだ。