絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

私のための巨大な乳房 The gargantuan breasts for me

 
 私の体から生えた巨乳を持ちあげながらメイドはつぶやいた。
「三つだ、三つはっきりさせておこう。ひとつ、おれはメイドじゃない、ふたつ、おれは男だ、みっつ……おれは……この途方もないデカパイの消し方を知っている」
 
 ハンス・ヘンリクセンが巨大な乳に関する呪術の研究をはじめたのは、やっとの思いで入ったばかりの大学をある事情で(これはあとで語ることになる)除籍になってから、叔父のコネで転がり込んだ会社でまたもや不祥事を起こし(これは女にまつわる類のよくある事故だから特には語らない、キーワードは「会議室」と「コンドーム」そして「専務」)、史料編纂室勤務になってすぐのことだった。
 妙に湿気た昼休み、ハンスは上司のエドから一冊の本を預かった。エドはこの国が南北に分かれてくっつくその前から資料室にいたみたいな顔の、しなびたドーナツを思わせる顔の老人だ。話す言葉は「そうだ」と「いいや」、たまに「なぜ?」
 そのエドが、乾ききった皮がひきつれて裂けるんじゃないか、というくらいの笑みを浮かべてハンスにその本を渡してきたとき、ハンスは子供のころに田舎の川で見知らぬ旅人に襲われかけたときのことを思い出した。
 
 旅人はテンガロンハットをかぶった無精ヒゲの色男で、ハリソンフォードをやせさせたみたいな顔で、にっこりと笑い、おれのズボンのボタンをはずしながら言った。
「ぼうや、新しい世界を見せてあげよう」
 おれは地面に押し倒されたとき、手近な石ころをつかんで旅人の頭を殴りつけ、走って逃げた。石がこめかみに当たったとき、めりこむような感触があった。藪を抜け、切り傷をいっぱい作って帰ったおれを、母親は優しく抱きとめてくれた。それから数週間は、いつ朝食の席で親父が「ほう、テンプル川でカウボーイが殺されたらしいぞ」と言い出すかと心配したが、そのうち誰も死んではいないのだと思い込むことにして、おれはそのことを忘れた。
 エドの笑みは、そのことをおれに思い出させた。あの川原で殴った旅人は、エドだったのか。だがもちろんそんなはずはなく、エドは本の表紙をトントンと折った針金みたいな指で叩いた。
 「巨大な乳の美しいメイドを手に入れる呪術」と、表紙には書いてあった。戸惑うおれに本を突き出し渡すと、エドは振り向いて手を振り、部屋から出て行こうとした。おれは言った。
「やめるのか、エド
「そうだ」
「これ、餞別かい」
「そうだ」
「らしくないな」
「なぜ?」
「あなたは真面目で、勤勉で、それに無神論者だ」
「そうだ」
「だから、こんなふざけた本を読むなんて、思ってなかった」
「なぜ?」
「だって、呪術だぜ? 巨大な乳の美しいメイドを手に入れるなんて……インチキだろ?」
 それからたっぷり三秒、エドは背中を向けたまま満足そうに息を吐いて言った。
「いいや」
 そしてエドは部屋を出て、そして二度と帰ってこなかった。
 
 はじめは半信半疑に、やがて真剣に、ハンスはその本を読み始めた。ふざけた題名とは裏腹に、真剣な文体でかかれたその本は、集中力に欠けがちなハンスをとりこにした。やがて、本を読み終わったハンスは、エドの家をたずねた。最後の検証をするためだ。
 ノック、ベル、しばらくしてパタパタと軽い足音。
「どちらさまですか」
 ドアの向こうから、おずおずと、舌足らずな声がする。
「ハンスです、エドエドワードさんの部下の」
 ドアが少しだけ開き、そこに黒髪の美少女が現れた。身長は子供のようだが、その胸は白と黒のメイド服をぱんぱんに張り詰めさせている。小さくとがった鼻、小さな口、大きくとろんとした瞳。美少女は、髪の毛を後ろでひっつめにして、ハンスを見上げている。
「すみません、ごしゅじんさまは、ふざいでございます」
「そうですか、残念です、また伺います」と答えたハンスの顔は、ちっとも残念そうではなかった。
 この本は本物だ。ハンスは本に書いてある材料と道具を集めはじめた。多少入手の難しいものもあったが、大学時代、理系の学生たちと一緒にやったいたずらで、講堂を爆破し、全壊させたときに比べたら安いものだった。もちろんあのときは爆破も全壊も計画には入っていなかったから、今回もそのようなことが起こるとハンスが予想できるわけもなかった。
 全ての条件をクリアし、毎朝メイドに起こしてもらう楽しい日々が送れるはずだったハンスは、鏡の前に立つ全裸の自分を見て言った。
「いったいどうなってんだ?」
 
 
「それで、いま私の目の前にいる金髪で長身、巨乳の美しいメイドが、ミスターハンス・ヘンリクセンってわけ?」
 私はメイド−−いまはハンス−−の手から巨乳を取り戻すと、両腕でかかえた。
「ああ、お前が手に入れたあの本は、おれが怒り狂って古本屋に二束三文で叩き売ったものだ。あのあとおれはエドの家に行き、なぜ失敗したのかを突き止めようとしたんだが……あれは失敗じゃなかった、あのエドの爺さんは、掛け値なしの本物の変態だったのさ。おれは聞いた、エドはどこだ、いません、あの本はデタラメだ、いいや、お前、もしかしてエドか、そうだ、大変だ元に戻らなきゃ……なぜ?」
「それで?どうすれば元に戻る?」
「乳を持つんだ、同じ目にあったメイド野郎の乳を持つ、そして眠るのを待ち、朝までふんばる、倒れず朝が来たら、この野郎をそっと起こすんだ。これを三日三晩続ける、すると呪いが解けて、おれたちは男に戻るんだ!」
「はぁん、私はつまり、巨乳持ちのメイドさんに朝起こしてもらうんだな」
「そのとおり!さあ、乳を持たせろ、その巨大でやわらかい……おい、何をする」
 私は乳の間に隠しておいたデリンジャーを抜き、ハンスの額に狙いを定めた。
「なあぼうや、新しい世界を見たくないか?」
 こめかみの傷は癒えないが、やわらかなブルネットが隠してくれた。
 私は引き金に力をこめて、十数年ぶりに再会した少年のおびえる顔を見ながら、心の中で射精した。
 
 

投稿作品、2300文字くらい。

【乳メイド賞】巨乳持ちのメイドさんに朝起こしてもらうオリジナルの創作小説・漫画を募集します。

条件:巨乳持ちのメイドさんに朝起こしてもらうオリジナルの作品であること。
 オリジナルでありさえすれば、形式、文体、ジャンルには特にこだわりません。
 SFでもファンタジーでも恋愛物でもホラーでも携帯小説でもポエムでも萌えな感じでも、ご自由に。
 ストレートなものでも変則的な物でも構いません。
 要約すると『巨乳持ちのメイドさんに朝起こしてもらう』としか言いようのない作品であれば、それ以外の点は自由です。
字数:200〜2000字程度
締め切り:2009-01-19 午前零時ぐらい
優秀賞:もっとも優秀な(と質問者が判断する)作品を書いて下さった方に200ポイントを進呈します。
http://q.hatena.ne.jp/1231767816

nayusawamuraの日記 - 乳メイド賞、講評
大賞を受賞させていただいた、ありがたいことです。