『べしゃり暮らし』ヤンジャンで連載開始。
読みました。おお、痛快(使い方間違ってる)。
『べしゃり暮らし』というのは、簡単に説明すると「学園の爆笑王」上妻(天然)に、元芸人の高校生辻本(関西人)が惚れてコンビを組むまでの話を描いたマンガ。
漫才を描いたマンガといえば『リンガ・フランカ』が思い当たるんだけど、アレは二人の孤独な天才が、一番能力を発揮できる終生の相方と出会う話だった。漫才に付随するドラマというのは、どうしてもその「離れがたい二人」に集約されてしまうし、それこそ観客の見たいものだったりもする。
だけどこの『べしゃり暮らし』は全然違う。このマンガがすごいのは、二人が天才ではないというところだ。だから劇中で話す二人の会話が面白くない!これはすごく衝撃だった。
確かに現実には事務所の意向でコンビを組まされたりするわけで、相方は仕事上でのコンビでしかない場合も多いだろう。だからってそのことをリアルに描いても業界内幕ものにしかならない。そこで森田まさのりが取った手法が「いつでも離れられる二人」だったわけだ。
辻本と上妻は高校生だ。辻本は一時期プロだったが、上妻は辻本に出会うまで「べしゃり」で暮らしていけるなんて想像もしていなかった。だから上妻はいつでも逃げ出せる、もちろん設定上はかなりの制約があるけど、このコンビはちょっとしたことで解散してしまえる。
そして、上妻は自分のことを「学園の爆笑王」と自称してしまうほど、自分の面白さを自分で殺していることに気づけない愚か者なのだ。上妻の真の面白さを知っているのは辻本と読者だけで、当の上妻さえ自分の面白さがどこにあるのかわかっていない。
こんな危うい二人が幾多の困難を乗り越えて「相方」になれるのか?というドキドキ感が、このマンガの新しい部分だった。
と、そんな意欲的な作品だったんだけど、ジャンプ誌ではあまり評価されず、赤マルジャンプで最終回を迎えてしまった。しかもジャンプ感想系サイトでは「何で上妻のつまらないギャグで生徒たちは大爆笑するのかわからない」などと書かれる始末。
そんな『べしゃり暮らし』がヤンジャンに登場!という話題なのですが前置き長かったですね、すみません。
さて、新連載第一回目は「学園の爆笑王」がプロと同じステージに立って現実を知る!という展開。今まで面白くないのに劇中でウケてたのは、この為の伏線だったのだ!という安心感。
43P〜44Pの金本(プロのお笑い、辻本の先輩)の解説者展開が気持ちいい。
43P
金本「しかし まぁ……今までは楽やったやろな」
辻本「え?」
金本「周りの人間は/全員自分の事/おもろい奴と/よう/刷り込まれとる/奴ばっかりで」
金本「何を言うても/爆笑して/もらえる」
金本「ホンマは/サブい事/言うてたと/してもな」
辻本「………」
金本「くっくっ/ちゃうか?」
44P
金本「それは/オーラなんて/モンとは/全く別モン/やけどな」
金本「言うたら/それは そいつが/学校で いつの間にか/身にまとった/空気っちゅー奴や」
金本「若手の芸人が必死で/まず 顔と名前を/覚えてもらおうと/すんのは」
金本「ちょっとでも/早よぉ/そういう空気を/まといたいからや」
あと48P〜49Pの辻本の上妻に対するデレっぷり。
金本「ところで/今まで/どんなネタで/笑ろたん/そいつの」
辻本「いや……え…?」
「(上妻で/笑ろた/ネタ…/笑ろた事…)」
「(………頭剃ったんは/笑ろたけど……)」
「(………/あ……/………/あれ…?)」
辻本「て…てゆーか/誰よりも笑いに/貪欲な奴/なんです!/これは/言えます!」
辻本「死んだら/おもろい場面/やったら/多分あいつ/死ねる奴/なんです!」
金本「芸人 誰かて/そう言うねん/何ムキに/なってんねん/フッ」
辻本「(………/あの文化祭の/ライブは……)(………/ホンマモン/やったはずや……)」
上妻は面白いと確信していたはずなのに、笑った記憶がない辻本!ひどい!
ヤンキーマンガなら、お山の大将が痛い目に遭うというスタイルがあると思うんだけど、お笑いをテーマにしているのがすげえなあ、って思います。上妻が毎回ひどい目に遭うわけじゃないですか、そしてそれを見ながら辻本が「お前はこんなもんやないはずや」って困るんでしょ、これからずっと、ああ、痛快だなあ。えーと、意味がわかんないってひとは、スラムダンクで花道が基礎を練習してるあたりの展開を思い出すといいです。右手はそえるだけ……っていう感じで。
何にせよ、連載再開がうれしい作品です。未読の方は是非。
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