絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

新宿南口、二十三時。

 新宿南口の高架上にある歩道で、コート姿の中年男性が、黒ずんだ金属バットをぶんぶん振っていた。ずっと振っていたのだろう、足もとの地面は、激しいスイングの影響で、掘り返され、えぐれていた。その顔は、吹き出た汗で深海魚みたいにぬめり、目はうつろに前を見ていた。
 私は目を合わせないように、その脇をすり抜けた。だが待てよ、そのバットで、誰かを殴ったのかもしれない。そう思った私は、寝ている浮浪者の中に被害者を探した。
 花壇に寝た浮浪者の中に一人、泥にまみれ擦り傷だらけで足を腫らした若者がいる。そらみろ、やっぱりだ。私は若者の脚をつかみ、高くかかげた。
「危ない!」
 誰かの声にふりかえると、中年男性がバットを振りかぶって立っていた。
 そこで、横から飛び出した白いポロシャツ姿の青年が、中年男の上に乗って取り押さえた。声をかけてくれたのも、この青年なのだろう。ポロシャツ姿の青年は角刈りで、笑うと白い歯が見えた。中年男の顔をよく見ようと、私はしゃがんだ。遠巻きに見ながら「噛まれるぞ」と警官が忠告した。
 余計なお世話だ、何もしないくせに。私は警官たちをにらんだ、顔は見えなかった。
 しゃがんでいる私の膝に中年男性が噛み付いた。そら見ろと警官たちが笑った。
 中年男性の顔はますます魚類じみて、その細くてか弱い歯が私の膝にくいこんだ。