絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

 男と女が病院の待合室で混沌と秩序に関する短い問答をしている。
 脳の機械治療が始まったのはほんの数十年前だが、一部の宗教団体を除いては、コンタクトレンズや義足と変わらない補助的な治療であるとして、ほとんどの人間が脳が老化する前に治療を受けている。
 表通りを騒がしい集団が通り過ぎる。脳の機械治療に反対する宗教団体がシュプレヒコールをあげているのだ。 
 このうえない誠実さをモットーとして生きてきた男は、頭蓋骨内に発生した腫瘍のために、頭痛を抱えている。今日病院へ訪れたのも、いつか行うであろう脳の機械治療のための検査があるからだ。
 脳を量子的に走査して、電子情報に移し変え、頭蓋骨内へ機械を入れること(庇護N)に、男はすこしだけおびえを感じている。
 女は既に治療を受けたが、不具合を感じるので検査をしに来たのだという。
 女は活発で、自由な発想を持ち、男よりもよほど人間的に見える。
 男は女に対して性的な欲求を持つが、互いの素性を知らないままに性的な関係を目的とした社交を行うことに抵抗を感じる。
 男はやがて、杓子定規な自分の性格を呪い、治療に身をゆだねることに希望(信頼)を抱くようになる。