絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

本書に書かれた内容に影響されるな

 おれは映画のシナリオを書いている。いま書いているのはいくつかのヒットした映画をもとに企画された、アイドルビデオドラマ企画のためのシナリオだ。おれはくだらない会話を流し書きながら、とにかく早くこの仕事が終わることを願っている。終われば少しの休暇と自分の作品を作る時間が得られると思い込んでいる。じっさいには休暇は眠っている間に過ぎ、空っぽの頭からは何も出てこないのだが、そう思わなければくだらない会話すら書けなくなるほど、おれはこの仕事を憎んでいる。
 妻から電話がかかってくる、週末はどうするかと妻が問う。おれは「仕事が終わらない」と告げる。電話は切れる、もう何ヶ月もセックスをしていない。受話器を置き、モニターに目を移す。左から右に流れる文字の中で、暴力も恐怖もない、生ぬるい恋愛が展開している。おれは吐き気をおぼえてトイレに駆け込む。
 トイレから出てきたおれは、モニターの上に乗せた一冊の本に気づく。趣味の自主映画を撮っていた友人が、面白いから読めと言って貸してくれた本だ。その友人はこう言った。
「おれはこの本を読んで自主映画を撮るのをやめた」
 ページを開くとファイトクラブのパロディだ。おれは口の端をゆがめて笑いながら、読み進む。やがて数時間が過ぎ、おれは本を読み終わり、本を閉じ、エロサイトを開いて無修正動画を見ながらオナニーをする。なるほど、確かに書かれた内容には間も影響されることがない、書かれた内容には。
 パソコンに向かって座ったまま射精を済ませたおれはザーメンぬぐったティッシュをゴミ袋に投げつける。すると"プロデューサー"を自称する鼻の詰まったデブが電話をかけてくる。立派な因果関係だ。糞の詰まった皮袋が気に入った女を出すから役を増やせと言う。その女のまんこに腐った鼻面を突っ込むところを想像しながら脂肪肝は役を増やせと言う。一言二言でいいからエキストラでいいから役名をつけて出してやれと言う。
 おれはただその言葉を聞く、屁の音と同じだ。鍛えられた体から繰り出される拳で顔面を砕かれたことがあるか。「意味のある言葉」とは、そのような力を持つ言葉のことを指す。そうでない言葉には何の力もない。詰まった糞袋が発する言葉には意味がない。屁の音よりも意味がない。
 撮影の日程は決まっている、すべては動き出している、止められない。誰がプロデューサーのちんぽと「口を出した」という自尊心を満足させるためだけに存在する糞みたいな脚本を書こうとしていたのか、今のおれには思い出すことができない。全ての役に意味があり、全てのカットに意味がある映画を監督に撮らせてやる。あのべトコンみたいな顔をした性格のいい男に最高の映画を撮らせてやる。そして二度とこの"プロデューサーを自称する鼻の詰まった糞袋"とは仕事をしない。そうだ、それでいい。

ファイト批評―映画・喧嘩・上等 (映画秘宝COLLECTION (33))

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