絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

どんな映画に出ても浅野さんは浅野さんで浅野さん以外の何者でもない。

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 アッコさんと短編映画について話していて「誰に出演してほしいか」という話題になったとき、アッコさんが「浅野忠信は、お願いしたら、軽く出てくれそうなイメージ」と言っていたのですが、もちろん素の浅野さんがどういう人かは知りませんので、これ(頼んだら出てくれそう)が「どんな映画に出ても」共通して感じられるイメージなのかもしれないと思った。「パーティー7」と「桃鮫」と「バタ金」と、それぞれの浅野さん、僕には違う演技をしているように思えるけど、俳優浅野忠信は「頼んだら出てくれそう」だ。

 よく、元アイドルが売れなくなってから舞台に出て「女優開眼」なんてやってるけど、ほんとうに開眼できる人なんてのは、ひとにぎりもいない。それは、ほんとうの演技が、普通の人間には、追い詰められないとできない類の行為だからだ。泣いたり怒ったり叫んだりするのは、少し追い詰めれば誰でもできる。数十行の台詞を言いながら、指先まで動きを制御して、まばたきの場所と回数を整えるなんて演技は、今時宝塚でしか見ないけど、これだって練習を繰り返せば、誰でもできるようになる。だけど、脚本に書いてある誰か別の人間の言葉を、まるで自分が考えたみたいに喋るのは、誰にでもできる事じゃない。

 だから、テレビでは、うまい役者なんてのは、あまり使われない。器用な役者とか、面白い役者とか、味のある役者とか、そういう「演出家が疲れない役者」の方が便利だし、仕事が早い。だいたい上に書いた基礎すらできないタレントの方が多いんだから、普通の役者の方がよほど使える。それに、うまい役者なんて面倒くさい、時間はかかるし、見てて疲れるし、すぐ死ぬし。

 海外でも話は同じだ。ロバート・デニーロはうまいけど、ものすごく器用だから長生きしてるし、アル・パチーノは何演ってもアル・パチーノに見える(全部違うのに)。日本の俳優に消エネタイプが多いのは、単にうまい役者が小劇場システムに食いつぶされていて、表に出れないってだけだろう。仕方がない、薄利多売の方がリスクが少なくて、金の余ってる人はもっと余らせるのに必死だ。

 なんだ今年は同じ話ばかりしているな。とにかく僕は棒読みでも演技してる役者が好きだし、器用でアドリブのうまい役者も好きだ。世の中の役に立たない技術ばかり磨いているワークショップジャンキーの演技だって見方によっちゃ面白い。だいたい僕らは額に汗かいて働く人たちからおひねりをもらわなきゃ生活できないんだから、死ぬ気でくだらないことをして、くだらなさすぎて死んだりしよう。