絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

えー、今日は素晴らしい事があったので報告します。
報告します。
仕事の帰りに歩いていると突然僕の隣に自転車が停まったのです。
その自転車にはショートカットの女の人(推定十代後半)が乗っていて、僕に話しかけてきたのです、早口で。
「おっは(力なく両手をあげながら)」
「え?」
「いくつ?」
「え?」
「年いくつ?」
「…二十四…」
「二十四?あたしは?」
「へ?」
「二十九」
「へえ、そう」
「腰痛い」
「ああ、大丈夫?」
「これいくら?(自転車の籠に入ったビニール袋を出しながら)」
「あ、え…えーと、百、十三円」
「ジュース買える?」
「え、コンビニなら買えると思う」
「コンビニ、連れてって」
「え、あ、うん」

喋るスピードは通常の1.5倍、目の焦点はもちろん合ってません。

「雨降る?」
「いや、降らないんじゃない?」
「腰痛い」
「そう」
「明日雨降る?」
「降るかもね」
「天気予報は?」
「えーと、雨」
「なんで?」
「…えっ…あ…どうしてかな」
「月はどこ?」
「月は、ビルの向こうかな、今見えないよね」
「月、向こう?」
「うん」
「コンビニどこ?」
「もうすこし」
「点滴打ってた」
「え?」
「(右手の人差し指に貼ったバンソウコウを見せながら)点滴、一日一本」
「へえ、入院してたの?」
「雨降る?」
「ううん、降るかなあ」
「指痛い」
「大変だねえ」
「雨降る?」
「昼に降ったよね」

そのときビルの隙間から月が見えました。

「あ、月」
「月?」
「出てるよ、月」
「(顔を月からそむけながら)月、出てる?」
「あ…うん…」
「雨降る?」
「降らないと思う」
「指痛い」
「うん…コンビニ、着いたよ」
「明日、何時に来る?」
「ん、何時って」
「またね」
「あ、またね」
「おっは」
「うん」

しばらく歩いて振り向くとこっちを向いていたので手をふると彼女はうれしそうにふり返したのです。

それだけの話なのです。