『GoGo』 第七話
バンだかドカンだか、大きな音がドアの方から聞こえて、ブーンって音がするから振り向いたら、右腕が肩の下からなくなった。ぼくは疑っていたけれど、死ぬ寸前は時間が長く感じるってのは本当だね。ゆっくりとリノリウムの床に向かってぶんぶん回転しながら落下してゆくぼくの右腕に、いくつかの弾丸が順番に食い込んで指がちぎれ飛んだところまでがきれいなスローモーション。
最近のマシンガンは、あんまり早いからダダダじゃなくてブーンって言うんだよ。
そんな平岡さんの言葉を思い出した瞬間、背中の筋肉がきゅうと小さくなって、体が大きくのけぞった。
左手は失なった右腕の肘のところを掴もうと握ったり開いたり。
ちぎれた腕の穴から、手品の万国旗を引っぱり出するみたいに出てくる血が床やら机やらに赤い水玉模様をぶちまけた。
心臓が耳の下に移動して、ぎゃあぎゃあ叫んでいるみたいに感じる。ぎゃあとひとつ叫ぶたびに、腕の穴から血が吹き出た。
目をあけたら、天井と蛍光灯らしき光。あたりは真っ白だ。さっき投げ込まれた缶からしゅうしゅう吹き出す煙で、真っ白だ。ひきつる背中を伸ばしながら、体を前に曲げると、煙のすきまから事務所の様子が見えた。
ぼくの目の前にいた奴は、ドアが吹っ飛んだとき、顔の左半分に三つ穴があいて死んだ。顔の右半分が、若頭のアルマーニにぶち撒けられたから死んだはずだ。若頭は自慢のアルマーニに開けられた大穴からはらわたをどぼどぼこぼして死んだ。はらわたを追いかけて屈んだとき、頭から髪の毛のついた皮が何枚もはじけて飛んだ。今は二人とも仲良く倒れて死んでいる。血だまりが、ぼくの方まで流れてくる。蛍光灯の下でてらてらと光っている。
内臓の裂けたにおい、糞便と潮の混ざったにおいがした。
ぼくは立ったままめまいがして、吐いた。
鼻にまわったゲロがすっぱい、目から流れる涙がしょっぱい。
ははは、死んだ、ざまあみろ。
ぼくは生きてるぞ、生きてるぞ。
びゅうびゅうと腕から血が出て行く。
ぼくはくるくる回ってリボンみたく血のあとを残す。
そうだ、三階の平岡さんはもう逃げたかな、無事だといいな。
あの女が一緒にいるのは腹がたつけど。
BGMは何がいいかな。
あいつとぼくが同じ場所で死ぬ方が嫌だ。
平岡さんの教えてくれた曲がいい。
しっかり平岡さんを助けておくれよ。
シューベルトはどうだろう。
あのひとは強がってるけど根はやさしいんだ。
平岡さんが教えてくれたんだ。
ドアの方からガツガツと事務所に入ってくる足音が聞こえる。
やがて聞こえる蜜蜂の羽音。
しろいけむりのなかに僕のからだが砕けて散った。