絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『GoGo』 第二話

 少女の薄い腰を分厚い男の掌が掴んで離さない。
 小さな薄い壁でできた箱の中で彼女は話さない。

 女子中学生という記号的存在がこの社会で形骸的な意味しか持たなくなってからも彼女はそれに対する意味を考えた事が無いというそれだけの根拠をもとにその商売を続けていた。
「出していい?」
「中?」
「中」
「やだぁ」
「いいだろ、いいだろ」
「やだやだやだ」
「ああううもう出る、出る、出る」
 腰の動きが早まり、息遣いは荒くなるのに、男はいつまでたっても射精しない。
「出る、出る、出る、出る、出る、出る、出る、出る」
 最近彼女は時間の進み方におかしさを感じていた。
 やがて男は、うめき声をあげながら、何度か腰を強くうちつけ、彼女の上に倒れかかった。どっしりとのしかかる重みを避けるように転がると、彼女の股間から大量の精液が垂れ流れた。ティッシュペーパーで股間の精液をぬぐっていると、男の寝息が聞こえ始めた。
 彼女がベッドから下りシャワーを浴びしっかりと洗った膣内に精液が残っていないのを確かめて全身を拭いて制服に着替えてメモでも残しておいてやろうとベッドに戻ったとき隣に寝ていたのが見覚えのない男だったとしてもそれは彼女にとって驚いたり取り乱したりするような事ではないが今彼女が化粧の落ちた小さなまぶたを限界まで広げてのどの奥から何かをしぼりだそうとしているその原因は割とそれに近い。

 2時間後、彼女は総武線に揺られながら、どこでぶつけたものなのか、鈍い痛みを肩に感じた。
 天井をみつめる目。
 汗のひいた背中。
 彼女は必死で別の事を考えようとするが、つい昨日まで当然のようにできていた、自分にとって心地よくないものを記憶の中から締め出すという技術が、まったく失われている事に苛立ちと焦りを感じた。
 ベッドの上でうつぶせに横たわっていたのは見知らぬ男の死体だったがそれは死体というのが憚られるほどの自然さで天井を見つめていた。
 うつぶせに寝たまま天井を見つめていたのだ。
 彼女は床にちらばった万札をかき集め、部屋を出た。

 そのあとで彼女の脳内に破裂した記憶は昨夜のものではなく一週間前に殺した隣家の飼い犬の死ぬ直前まで目の前にいる見なれた女が自分を殺す為にバットをゴルフクラブの要領で振り上げている事に気付かず尻尾を振りつづけていたあの顔とそれを命じた隣家の主人の陰茎が程よく混ざった生物でそれはもううれしそうに彼女に向かって白くて柔らかい固形物の混ざった液体を吐き出していた。
 彼女はその中に薄く混ざった自分の経血を見ては何度も涙を流した。