絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

『トゥモロー・ワールド』が見せたもの、既に失われたすべて。

 冒頭、爆弾によって破壊された店から、フラフラと女が歩き出る。聞こえる叫び声がその女のものかどうかはわからない、女はちぎれた腕を反対の手で持っている。暗転。タイトル。
 失ったものは、もう戻らない。美しい風景には常に死体を焼く煙が見える、薄汚れた顔の移民たちには祖国がない。美術品を集める、薬を飲む、何のために?それはもう、失われてしまったからだ。似たものはいくらでも作れるだろう、けれど、それはもう違うものだ。
 すべては失われる、あっけなく、唐突に。そこに理由を尋ねるのは、あまりに残酷で無邪気に過ぎる、誰が答えられるだろう? 私たちはもうすぐ滅ぶのだ。私だって、いつかは死ぬの。どうしてその意味を尋ねることができる?
 私が最初に涙を浮かべたのは、なんということはない、車で林道を走る場面だ。それは、私が見たことのない景色だった。なのに私は、それをとても懐かしく思った。それだけで充分だった。
 フィルムが回る、流れていく、もう二度と会えない。さようなら。
 
 
原作本。実は映画と正反対のことが描かれているのは秘密だ!

人類の子供たち (Hayakawa Novels)

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